2013年9月4日水曜日

〈音が見える〉DVD ――TRICERATOPS『GOING TO THE MOON -15TH ANNIVERSARY SHOW AT HIBIYA MUSIC BOWL-』



 ライブDVDの楽しみ方がわからない。
 生でライブを観ている時のように身体を動かすのはご近所さんに迷惑だし、ひとりでやっても空しいし。でも1時間以上も画面にかじりついているのも意外と大変だし。
 そんなあなたに一度観て頂きたいのが、トライセラトップス15周年記念ライブが収録されたこちら、『GOING TO THE MOON -15TH ANNIVERSARY SHOW AT HIBIYA MUSIC BOWL-』。このDVD、ただの映像記録とは一味違う。
 このDVD、なんと、〈音が録画されている〉DVDなのである。




 このDVD、演奏はもちろんMCやそれ以外まで、とにかくライブの空間そのものをDVDに収録されている。そして、ライブDVDをスタジオレコーディングされた音源と同じような〈パッケージングされた完成品〉とするのではなく、ライブの全てが〈生モノの演奏〉として、そっくりそのまま収められている。
 よく、ライブで「演奏が上手過ぎて、これは本当に目の前で演奏しているのかと疑ってしまう」なんてことがありますが、このDVDで起きているのは「間違いなく目の前で演奏していることがわかるくらい生の音なのに、それでいて上手い」という状態。そのくらい生々しい演奏をDVDで楽しむことができます。
 そんな生々しい演奏をDVDにするために一役買っているのが、ステージにとにかくカメラが寄っていく演出。メンバーの姿のアップはもちろん、それと同じくらい楽器を弾く手元がよく映る。エレキギターとピック、エフェクターを踏む足、ベースのフレット、ドラムセットまで。アコースティックギターの弦がビビって強い音を立てる場面では、きちんとギターの手元をアップに映す。つまり音が生まれる場所をきちんと観ることができるんです。映像を通して音楽とその出所である楽器がきちんと繋がっていて、収録されて一度は〈生〉でなくなった演奏を後から観ている僕たちでも、それが目の前から生まれている音なんだと思ってしまう。
 ここに収録されているのは、映像作品というよりも、演奏をよく聴かせる、音を強調するための映像なんです。もはや画面に映っているのも音楽である、と言ってもいい。そんな、演奏の後ろにぴったりくっ付いて、必要以上の自己主張をしない映像があってもいい。


 ライブ序盤の和田唱の言葉が、僕は好きで好きでしょうがない。

「デビュー当時だったらここでMCのあと、じゃあ行くぜ、ってガンガンのロックンロールをやる所なんですけど、いかんせん今日僕たちは15歳の誕生日。オトナです。なのでちょっと、ロマンティックに攻めたいと思うんですけど。みんなも是非ロマンティックに、ダンシングで返してください」

 そう、このDVDを観るために僕らも少しだけ背伸びしてオトナになろう。モッシュやダイブから離れて、わかりやすく熱狂的な盛り上がりが無くたって、丁寧に収められた音楽を楽しめれば十分だ。僕たちは再生中ずっと、食い入るように映像に観ていなくてもいいんじゃないかと思う。携帯電話を片手にでも、単純作業のお供にでも、BGVのようにDVDを流しっぱなしにする、くらいの距離感で楽しむのが丁度いい。
 お察しの方もいるかもしれないが、このDVD、とにかくお酒に合う。適当なつまみと一緒にだらだら飲みだして、多少酔いが回って気が大きくなったらひとりでも踊っちゃっていいし。そんな、オシャレなジャズバーで一杯やりに行く、みたいな楽しみ方がおすすめ。



Text by Shun Ito

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